De ZerbiのBrighton分析Part. 3です。今回でやっと戦術分析です。※文量かなり多いです(約2万文字)。
(Part.1 De Zerbi個人にフォーカス・Part.2 過去指揮クラブでの結果)
Brighton 戦術分析
De Zerbiは9月18日に就任以降、公式戦9試合を指揮し、W杯ブレイク前での結果は3勝2分4敗という成績です。初戦からAnfieldでのLiverpoolとの対戦という難しいカードであり、加えて9試合のうち5試合はBIG 6のうちUnited以外の5チームです。このことを加味すれば悪い結果ではないでしょう。
就任直後からの5試合のうち4試合は前任者のGraham Potterが採用していた3バックで試合に臨んでいます。(4-4-2で開始したBrighton戦でも後半から3バックに変更しています。)過去に指揮したSassuolo・Shaktarでは好んで4-2-3-1(4-4-2)の形を使用しており、この5試合は慎重にチームをPotterのBrightonからDe ZerbiのBrightonに変えていく移行段階だと考えられます。ただ、初戦のLiverpool戦からDe Zerbiのエッセンスは見られ、Potterの築いたポジショナルプレーの土台があったおかげで、De Zerbiのアイディアを早い段階でチームに導入することに成功しています。
Chelsea戦からの4試合は4-2-3-1(4-4-2)を使っており、やはり4-2-3-1が最も好む形で、今後は4-2-3-1を継続して使うと予測されます。そのため、Brightonの試合としてはこの4-2-3-1の形での試合を分析しました。
WhoScored.comから引用しフォーメーションを加筆
(FormationはWhoScored.comでの試合開始時でのフォーメーション)
BrightonでのDe Zerbiの戦術はSassuolo・Shakhtar時代の戦術と多くの点で類似しています。
それでは、De ZelbiのBrightonの戦術を分析していきます。Brightonの試合だけでは分析できる試合数が少ないため、SassuoloとShakhtar時代の戦術分析でBrightonでの戦術分析を補強し、De Zerbiのアイディアの全体像ができるだけ見えるように努めようと思っています。
De Zerbiがどんな哲学やプレイのメンタリティーを持っているのかはBrightonや過去のクラブの試合を見ることで汲み取れますが、本人が語った言葉から読み解くのが最も簡単で正確な方法でしょう。そこでDe Zerbi自身が彼の哲学について詳しく語っているものを紹介します。
まずは、De Zerbiが自身のサッカーについて語った動画です。
どうして、後ろからボールを繋ぐのかって?答えるけど、もしかしたら僕の答えは他の人とは違うかもしれない。僕が思うに、長いボールを蹴って、セカンドボールを拾おうとするのは賭けだ。そして僕は賭けが嫌いだ。だからできるだけ後ろから繋ぐようにしている。だってそれは賭けじゃないからね。賭けよりも、Workingの価値を信じている。僕のチームには高い質の選手がいつもいるんだ。僕は彼らにはロングボールを頭で競り合うんじゃなくて、足元でボールを受けて欲しい。
必ず後ろから繋ぐかだって?いいや、そうはしないよ。初期の動きで、相手と数的同数の場合、自陣深くではなく、もっと前でプレイする。でもボールを放るんじゃなく、選手めがけてパスする。....ボールロストや失点について色々言う奴がいるけど、僕達は何点決めた?僕のおかげじゃないよ笑チームにいい選手がいるからさ。GKからフォワードまでみんないい選手なんだ。....
次に前任者のPotterのBrightonと比較して自身の考えとの共通点と相違点についての言葉を紹介します。De ZerbiはBrightonの最初の記者会見で記者を通して次のように語っています。
Potterが私と同じ考えかどうかはわからないが、Brightonにとってゲームのリズムをコントロールすることが一つのポイントになる。だからといって、PotterがBrightonでいい仕事をしなかったというわけではないよ。
“I don’t know if he has the same idea or not, but one of the things for this team can be to control the rhythm of the game much more. That doesn’t mean he didn’t do a good job here.”
Potterは素晴らしかった。私とPotterには多くの共通点がある。それはプレイのシステムに関してではなく、原則とメンタリティーの部分だ。
“Potter did a great job, everyone knows what made Potter here, but I’m not Potter. We have a lot of things in common, but I’m not talking about the way we play, I’m talking about the principles and the mentality.
だからもし、メンタリティーと原則を維持できれば、大きな変革なしで、私の明確なアイディアをチームに持ち込めるだろうね。
“So, if we can keep this mentality and those principles, I will try to bring here my clear idea without making many big changes.”
De Zerbiの指摘したPotterと共通する原則はポジショナルプレーのことです。ポジショナルプレーとはFootbalistaの記事から引用すると、 あらかじめ決められた組織構造の中で正しいポジションを占有することの重要性から、その名前が付けられている。つまりは、「ボールの場所がポジションを決定する」「ポジションがボールに向かうのではなく、ボールがポジションに向かう」ということだ。
De Zerbiは組織的な戦い方で優位性を得て、その優位性を用いて、試合をコントロールしようと考えており、ボールを後ろから繋ぎ、リスクを伴ってでも試合をコントロールしよういう野心的な考え方を持っています。
システム
まずは、De Zerbiのシステムの全体像を掴めるように、フォーメーション・攻撃・トランジション・守備について順に紹介します。その後で、項目ごとにそれぞれ詳細に説明します。
De Zerbiは4-2-3-1を好んでおり、このフォーメーションを今後継続して使うと思われます。(ベストメンバーで挑めない試合では、選手をより自然な位置で使うため、3-4-3の形を使う可能性があります。)
1トップは偽9番として機能します。Sassuolo・Shkhtarと同様にBrightonでもポゼッションを重視し、後ろからボールを繋ぎ、ロングボールはあまり使いません。下の図はDe ZerbiのSassuoloでの最後のシーズンと、Potterの今シーズンのBrightonを比較しています。Sassuoloはよりポゼッションに重点を置き、またクロスがより少ないという特徴があります。
サイドバックはビルドアップの段階では比較的低い位置にポジションを取り、ウィングは高い位置で幅をとります。これは一般的な4-2-3-1のアプローチとは対照的なポジショニングになります。一般的な4-2-3-1ではCMがCBの間かCBの隣に降りてきて(サリーダラボルピアーナ)、サイドバックが高い位置を取りウィングが内に絞る形でローテーションします(ワイドローテーション)。我らが日本代表もこの形をよく使います。一方、De Zerbiはサリーダラボルピアーナを用いることはなく、中央で2-2(2CB+2CM)の形でボールを細かく繋ぎ保持することに重点を置きます。
ビルドアップではDe Zerbiはプレスを避けるようにプレスから離れてプレイすることでプレス回避をするのではなく、相手のプレスを誘発することが非常に特徴的です。相手がプレスに来ない場合には静止した状態でボールを足裏で数秒間保持し、静止することで相手を動かそうとまですることもあります。プレスを誘発することで、相手はピッチのより高いエリアあるいは片方のサイドに引きつけられます。この時、相手は後方・中盤あるいは逆サイドにスペースを大きく開けています。そのタイミングで、逆をつき、相手の残したスペースを使います。
De Zerbiのプレスベイティングの形は大きく分けて3つあります。
※単語はオリジナルなので一般的な単語ではないです。(単語はあんまり気に入っていないので叩き台程度に考えてください)
・ディーププレスベイティング:自陣深くでパスを繋ぎ、意図的に相手をプレスに誘い、相手を自陣に深く引き込み、相手の中盤にスペースを作り、チャンスが来ると、テンポを上げてそのスペースを使う。
・ワンサイドプレスベイティング:ビルドアップで相手を引き付け、片側でオーバーロードしてボールをキープして相手を片側によせ、ウォールパスを利用したりして、負荷の低い反対側のサイドを使う。(これはポジショナルプレーで頻出するオーバーロードとアイソレーションでもあるので別の単語をわざわざ作って使うのに抵抗がありますが分かりやすいように...)
・GK(ゴールキック)からのプレスベイティング:相手がハイプレスをかけてくる場合に用いる、ゴールキックからのビルドアップの際に使われるプレスベイティング。少なくとも2通りの形があります。
これらのプレスベイティングを試合の中で試合状況や相手のプレスに応じて柔軟に使います。これらはそれぞれ取り上げて後で詳細に説明します。
センターラインを越えて、ボールを安定して保持できるようになるとLBのEstupinanがサイドで高い位置を取り、LCMのCaicedoが支える位置どりをし、RCMのAllisterがスライドし、RBのGroßが偽サイドバックとして内側に絞り、CMの位置を取ります。そしてLWの三笘が内側に絞ることで菱形(ロンボ)を形成します。この一連のスライドは頻繁に使われ、その結果左サイドからの攻撃の形が多くなります。
この一連のスライドによりBrightonは2-3-5の形をとります。いわゆる可変ってやつですね。
ファイナルサードでは、クロスではなく、ウィンガーによる幅を利用して、ドリブルや、動き、そしてワンタッチのコンビネーションでファイナルサードで崩そうとします。下の図はSassuoloの2020-2021シーズンのシュートマップとアシストマップですが、大外からのクロスではなく、短いパスから多くのゴールが決まっている傾向がわかります。
https://www.skysports.com/football/news/11095/12701756/roberto-de-zerbi-brighton-head-coachs-playing-style-analysed-after-graham-potter-leaves-for-chelseaより引用
ウィンガーはサイドと利き足が反対のインバーテッドウィングを使います。(三笘みたいな選手のことですね。)ウィングのカットインからファイナルサードでの動きが生じるため、大きくチームはウィングに依存しており、相手の守備を崩すための突破口です。SassuoloではDomenico Berardi・Jeremie Boga、ShakhtarではTete・Manor Solomonといった非常に優れたウィンガーがいました。ファイナルサードではこのサイドの選手がキープレイヤーです。
トランジションでは、カウンタープレスで、すばやくボールの所有権を取り戻そうとします。ボールを奪われた後での早期の段階ではまずプレスという意識があります。そしてボールを奪還できれば、ショートカウンターにつながりますが、この時、前線に4人の攻撃的な選手がいるため、厚みが十分ある攻撃で多くのチャンスを作ります。
守備では、必要に応じてローorミッドブロックを作ります。
2-3-5の形ではRBが元々いた位置にスペースを残しており、ボールを中盤で失い、ショートカウンターで相手にそのスペースを利用されると危険な形になります。
(Part. 1で紹介したようにDe Zerbiは攻撃8割・守備2割と言っているので、守備の説明は短めです笑。)
それでは、De Zerbiのシステムの全体像は紹介したので、それぞれ取り出して詳細に分析します。
プレスベイティング
De ZerbiはShakhtar時代にCLのプレイオフのGenk戦第1レグの後に、Shakhtarの公式サイトで以下のように語っています。
ポゼッションは常に相手のプレッシャーに左右されます。プレスがより激しいほど、より垂直方向への前進ができます。一方でよりプレスが緩いほど、ポゼッションは容易になり試合をコントロールできます。もちろん、これらは異なるプレイです。もし私たちが真に強いチームになったとき、どんな相手でも多くのチャンスを作り、多くのゴールを決めるでしょう。
The possession always depends on the opponents’ pressure. The tougher the pressure, the more vertical further development. The less opposing pressure, the greater our control of the match and possession of the ball will be. Of course, those are two different types of play. And when we become a really strong team, we will always have many chances, many options for amassing multiple goals and winning every match.
プレスベイティングは激しいプレスを試みる相手に対しての手段であり、相手のプレスがより激しいほどプレスベイティングの効果は大きくなります。
ディーププレスベイティング
後ろでパスを繋ぎ、意図的に相手をプレスに誘い、相手を自陣に深く引き込み、相手の中盤にスペースを作り、チャンスが来ると、テンポを上げてそのスペースを使う方法です。垂直方向に相手のコンパクトさを分解する手法とも言えます。ただ、成功した場合の効果も大きいですが、相手を自陣深くに引き込んでいるため、ミスをした場合のリスクもかなり高いといえます。
垂直方向のコンパクトさを分解するとは下図で説明すると、3つある相手のラインの間隔を黄色の矢印方向に伸ばすことですね。
Brightonでは、CBがボールを足裏で止め、数秒間保持するようなシーンが幾度も見られ、De Zerbiがボールを止めることで相手を動かすよう指示していることがわかります。
ディーププレスベイティングには多数の形があります。下で紹介するのはその中で直近数試合でよく見られる形です。(Brightonはフォーメーションが4-2-3-1ではなく3-4-2-1であった、De Zerbi初陣のLiverpool戦でも、この手法を使っています。)
Brightonは1-4-2(GKが1)の形で、両CMは中央で近い距離感を保ちます。CBとSBはワイドにポジションとります。
CBはワイドにポジションを取り、その一方でCMはお互いに近い距離で中央にいるため、CBの前にはパスの通り道が開いています。ハーフスペースの低い位置にパスレーンができ、ここにアタッカーが落ちてきてパスを受けます。この場合にはTrossardですが、このアタッカーのドロップに対して、CBのThiago Silvaが対応しています。この動作はCBをデフォルトの位置から吊り出すことにもつながります。
ディフェンダーを背負ったアタッカー(Trossard)には複数のパスのオプション(Allister, Caicedo, Estupinan)があり、この場面では例えば、CM(Allister)にレイオフした後、釣り出された相手のCB(Chalobah)の後ろのスペースにSB(Estupinan)が、カットインする形を作れます。 ワンサイドプレスベイティング
ビルドアップで相手のプレスを誘い、相手を引き付けます。片側でオーバーロドしてボールをキープして相手を片側によせ、ウォールパスを利用したりして、負荷の低い反対側のサイドを利用します。(これはポジショナルプレーで頻出するオーバーロードとアイソレーションです。)
下の動画の1つめの場面でこのプレスベイティングを紹介します。後ろからビルドアップ、左サイドでオーバロードし、Allisterを使ってCaicedoにウォールパスし、反対サイドのRCBのWebsterにパスをする形です。アタッカーがオーバーロドのためにドロップすることは、相手の守備的な選手をデフォルトの位置から吊り出すことにも繋がります。
GKからのプレスベイティング
GKからのビルドアップにおいて、相手がより人指向の強いハイプレスを仕掛けてきた場合にはいくつかのプレスベイティングの形があります。基本的にどの形でも両CBはGKと同じ高さに位置どり、相手をかなり深く引き込み、CMはペナルティーアークの両端あたりに位置を取ります。このような配置をとることで相手の選手を大きく前線に釣り出し、ハーフウェーラインに位置するDFの最終ラインと前線の選手との間に大きな中盤の空洞が生じさせます。以下の画像の場面はShakhtar時代のものですが、全体の配置の把握が容易なので載せておきます。(この場面ではCMはペナルティーアークの両端あたりよりさらに低い位置をとっていますね。)
はっきりと意図がわかりSassuoloでも行っていた形を2つ紹介します。
1. 中央分割
2. GK→CM→ファーのCB
1.はChelsea戦の前半、Chelseaが2失点後のタイミングで3回使われています。Chelseaは2失点を喫し、得点を必死に取ろう、まさにより激しいプレスに出てきたタイミングといえます。
ここで紹介する2つの形以外にも相手のプレスの形に応じていくつものパターンが考えられます。ここでは全部紹介しませんが、@MarcoLai_23さんのツイートで紹介されています。
この形では、両CBはGKと同じ高さに位置どり、相手をかなり深く引き込み、CMはセンターアークの両端あたりに位置どります。CBのどちらか片方がGKの傍に立ち、このCBがゴールキックを短くGKに出します。このとき、CMが中央のラインを開いたままにすることで、中央にボールの通り道ができ、中央のアタッカーの前に落とすロングキックをGKが蹴ることができます。
上の図はChelsea戦の前半24分での配置です。ゴールキックのタイミングでの選手の配置の全体像がわかりづらいと思いますが、上の図の形と同様であることが確認できます。(ハーフウェーラインのあたりの初期の配置は映像から確認できないので推測です。)
LCBのDunkがゴールキックをGKのSanchezに出します。2枚のCMが中央から少し開きます。
中央にボールの通り道があることがわかります。
GKのSanchezからのキックをトップ下のLalanaが降りてきて受けることができます。このとき相手の中盤に非常に大きなギャップが生じているのがわかりやすいですね。
先ほどのシーンの7分後の前半31分にもこのプレスベイティングの形を使っています。中央のアタッカーである2人が降りてきて、Chelseaの中央のDFが釣り出されていることがわかります。
ゴールキーパーのキックの際のBrightonのアタッカー4人の初期の配置は映像から確認できないのですが、Sassuolo’s Positional Play Systemでは選手の配置について次のように考察されています。『両サイドのウィングはワイドに高いポジションを取ることで、相手の守備ラインを水平方向に広く伸ばします。このような配置を取るのはGKからのロングボールを中央のアタッカーの片方が受けた後にその落としを、もう一人のアタッカーが拾う確率を高めるためだと考えられます。』
両サイドのウィングは中央に向けて走ります。中央のアタッカーのマーカーが釣り出されており、相手の守備の中央に穴が空いている状態です。AMとCFの2人でボールを納め、前方にパスを出すことができれば、ウィング2枚対DF2枚の非常に危険な形を作り出せます(Chelsea戦前半31分はまさにこの形)。
あるいはワイドのDF(RCBとLCB)がより絞ったポジションをとる場合は、ウィングは中央に走るのではなく、孤立できるサイドにとどまる判断をするべきでしょう。(下図)
この形はBrightonではこのBrentford戦の1度しか確認できませんでしたが、Sassuolo・Shakhtar時代にも同様の形を幾度も使っていたため取り上げます。
Brentford戦のシーンを用いて解説します。Brentfordのフォーメーションは4-3-3です。Brightonの5-2の形に対して、Brentfordは2-4の形でプレスをかけます。(下の場面)
なお、下の画像は解説するシーン(11:40-)とは別のシーン(8:42-)ですが、Brightonサイドの選手の配置がわかりやすいのでここで一時的に用いています。
以下のシーン(11:40-)でこの形について解説します。まず、LCBのDunkがGKのSanchezに短くゴールキックを出します。2枚のうち片方のCMのドロップがトリガーになり、GKは2枚のCMのうち降りてきた方のCMにパスを通します。
パスを受けたCMは(この場面ではLCMのCaicedoが受けました)ボールからファーのサイドのCBにパスを通します。この場面ではLCMの反対サイドのRCBのWebsterになりますね。
一度CMに当ててからCBが受けることで、CBに対するファーストディフェンスが遅れ、CBは通常よりわずかに長い時間とスペースを持つことができます。相手のカバーを遅らせ、時間的・空間的な余裕を得ているわけです。これがボールをニアではなくファーのCBにパスすることが原則である理由です。
ボールをコントロールし、周りを見渡す余裕があったので、WebsterはJensenをかわして、Estuoinanにパスを通しました。
ただ、このBrentford戦のシーンはプレスベイティングとして有効的には働いていません。途中までの相手のプレスのいなし方は恐らくデザインされたプレイであるものの、WebsterからEstupinanへのパスの選択肢は悪くはないもののベストな選択肢ではないのではと考えられます。孤立した状態で相手の選手と1対1で競り合う形ですが、反対サイドへのパスなので比較的イーブンな競り合いになってしまいます。
では、どのような形がベターか2通り例を挙げてみます。
まず1つ目は、右のハーフスペースを活用する場合です。RCBの選手がボールを受け取って顔を上げた瞬間、選手の配置は以下のようになっています。元々RCMをマークしていた選手がRCBにプレッシャーをかけるために飛び出しているため、中央のカバーは薄くなります。
飛び出した選手の裏のスペースを使うようにRCMの選手が動けば、縦パスをフリーーで受けられます。出来るだけ縦パスを通りやすくするようにRBの選手はサイドに開き、マーカーをサイドに引っ張ろうとします。RBをマークしていた選手がRCMのマークに切り替えた場合には、RBの選手がフリーになるのでサイドから前進できます。
2つ目は、ブライトン側の視点で右側へ重心が傾いた相手のプレスの1stラインを活用する場合です。
LCMとRCMはともに右方向に前向きに走ります。LCMをマークしていた選手は引っ張られ、相手のプレスの1stラインの重心は以下のように右に傾きます。GKを経由して、LCBまでボールを素早く繋げば、LCBにはドリブルで運ぶ、あるいは縦方向にCFにパスを出すなど、少なくとも4つのオプションがあるはずです。
センターラインを越えて、ボールのポゼッションを維持できるようになると、LBのEstupinanがサイドで高い位置を取り、LCMのCaicedoが支えるポジションに移動、RCMのAllisterが左にスライドし、RBのGroßが偽サイドバックとして内側に絞り、CMの位置を取ります。そしてLWの三笘が内側に絞ることで2-3-5の形になります。この一連のスライドは頻繁に使われます。左サイドに選手が多いため左サイドで作る形が多くなります。前線の5枚では左サイドはLBのEstupinanが幅をとり、右サイドではRWのMarchが幅をとります。
左サイドでは4人の選手が頂点になる菱形が何度も形成されます。この菱形の頂点は右の頂点以外は基本的にLCM・LB・LWがとります。右の頂点にはピッチのより低い位置ではRCMが入り(1枚目)、ファイナルサードでは、偽9番のCFかAMの選手が入ります。(2枚目と3枚目)
2-3-5の形に移行することで、よりダイナミックな攻撃になり、相手の最終ラインに対して強い圧力をかけることができ、左サイドではより攻撃で脅威となるLWの選手をよりゴールに近い位置に配置できます。三笘のハイライトを見ると、大外にいる時よりもハーフスペースからドリブルを開始した際により決定的なチャンスに繋がっていることがわかると思います。
またRCMとRBのスライドはボールロストの際の中央でのディフェンスをカバーし、Rest defenceを整えます。中央のアタッカー2人(CFとAM)はハーフスペースでプレイします。偽9番のCFはRCBとRSBの間で中央に向かって走ることで、チャネル(CBとSBの間)の幅を水平方向に広げようとします。またチャネルに飛び込むことで、相手の守備に対し垂直方向にも負荷をかけることができます。
菱形の後方の頂点に位置取るLCMのCaicedoがボールを持っているとき、Caicedoは3つの前進パスのオプションを持つころになり前進が容易になります。このことについて論理的な説明がSassuolo’s Positional Play SystemでされていたのでそれをBrightonに当てはめて説明します。『Caidedoがボールを持っている状態で、菱形の両サイドのRBのEstupinanとRCMのAllisterが幅をとった場合、それぞれの選手のマーカーの選手は水平方向に分割され、垂直方向への道が開き、菱形の頂点のLWの三笘へのパスコースが生じます。一方で相手が守備のコンパクトさを重視し中央を閉じると、LBとRCMの選手がフリーになります。つまり、十分なカバーと守備のコンパクトさはトレードオフの関係にあり、両立しないため、全てのパスコースを防ぐことが非常に困難になるということです。これはサッカーの守備がコンパクトさとカバー範囲がトレードオフの関係にあるという難問を抱えているという大きな難題がピッチの一部で起こる一例です。』
Brighton-Chelsea戦の3点目は、まさにChelseaの守備にこの菱形により引き起こされる難問を課すことにより得られた得点です。
ChelseaのCheekはコンパクトさよりカバーを優先しました。Pulisicはコンパクトさを優先します。Cheek がわずかにカバーを優先したために、菱形の中央にパスコースが開きます。そのタイミングで菱形の頂点の三笘が中に絞ったため、Chalobahも中に引っ張られます。Estupinanが三笘が占有していた頂点の位置(図の赤色の部分)にワイドから走り込み、CaicedoがEstupinanにスルーパスを通します。
一方で、2-3-5のこの形は守備ではしばしば弱点を露呈します。RBにいた選手がそのポジションにはいないため、ボールを中盤で失った際、RBの位置には大きなスペースが空いてしまい、そこから危険な状況を幾度もつくられています。
ファイナルサードでは、クロスではなく、幅を利用して、ドリブルや、動き、そしてワンタッチのコンビネーションでファイナルサードで崩そうとします。ウィンガーはサイドと利き足が反対のインバーテッドウィングを使います。(三笘みたいな選手のことですね。)ウィングのカットインからファイナルサードでの動きが生じるため、チームはファイナルサードではウィングに依存しており、相手の守備を崩すための突破口です。崩しに関しては、選手が5レーンに適切な配置を選手が取りながら、味方との連携、技術、アドリブ力で動く感じです。
三笘を個人の選手として取り上げて分析します。テクニックについては素人が分析するのは難しいので、ポジションについての分析です。
Brightonの試合を見ていると、ついつい三笘がボールを持っていない時でさえ、三笘を目で追ってしまうという方も多いのではないでしょうか(私もその一人です笑)。三笘ばかり目で追うからこそ気づきやすいのが三笘のポジションです。
Brightonの基本的な配置では両サイドのWGはサイドの高い位置で張ります。これは敵のDFラインを水平方向に伸ばすのに役に立ちます。別の言い方をすると、相手の守備の水平方向のコンパクトさを分解しようという意図があります。
Pep ConfidentialというPep GuardiolaのBayern時代について書かれている本があるんですが、以下のような文章があります。
我々のアンストッパブルな選手は誰だ?それはワイドな選手。ウィングのRiberyとRibbenだ。我々はこの武器を使わなければならない。中盤の中央で優位に立ち、ダイアゴナルなパスで幅を広げる。つまり、RibbenとRiberyを解放するためにはチーム全体を前線に押し上げる必要がある。Pepはしつこいくらいにこのことを説明した。
‘Who are our unstoppable guys? The wide guys – Ribéry and Robben. We have to use that weapon. We have to be superior down the middle of midfield, but open up the width with diagonal passes. That means we have to push the whole team upfield in order to release Robben and Ribéry, because they can’t be dropping deep to start the play.’ He will explain this over and over again.
Perarnau, Martí. Pep Confidential (p. 96). Birlinn. より引用
守備側のチームは三笘のような"Unstoppable guy"を空間的・時間的な余裕を与えてプレイさせることは避けたいと考えます。三笘がワイドの高い位置にいることで、相手のSBにカバーを意識させ、水平方向のコンパクトさを低下させることができます。またSBはしばしば、三笘を捕まえる(カバーを重視)か、コンパクトさを維持するかの選択肢を間違え、ミスが発生します。このとき、大きなチャンスにつながります。
多くのチームは守備においてコンパクトさを維持しようとします。その場合は三笘は基本的にサイドに張った位置を取るのが上で述べた理由から理にかなっています。一方でよりアクティブにカバーを意識して守備をし、中央のコンパクトさを維持しないようなチームと戦う場合にはライン間に大きなスペースが生じるため、絞ったポジションを取ると想定されます。
2-3-5の形になった場合はどうでしょうか。前線に5枚の選手が配置されることになり、このとき5レーンにおける同じレーンにLWの三苫とLBのEstupinanが入らないようにするために、三笘が絞ることになります。この2人のうちでは三笘の方が狭いエリアでのプレイに向いたスキルセットを持っているため、三笘は中に絞り、よりゴールに近い位置をとるのが合理的です。
Brighton - 試合分析
次にDe Zerbiが試合中の相手の出方に応じてどのように対応するのかという相手との駆け引きを1試合を通して見ていきます。ここでは2試合紹介することにします。
Brighton 4-1 Chelsea
Brightonは試合開始から高い位置までプレスに出ます。ボール奪取からショートカウンターで得点し、CKから得点を追加します。ここまでChelseaの守備陣にはミスも多く、パフォーマンスはすこぶる悪いです。
2点ビハインドのChelseaは監督を引き抜いたチームに負けるわけにはいかないのでボールを素早く奪い返そうと激しく人指向にプレスをかけます。それに対して、プレスベイティング、ワンサイドプレスベイティング、GKからのプレスベイティングを当然用いました。プレスベイティングは非常に効果的に働き、Chelseaのプレスを空転させます。
前半30分になると、散々プレスを逆に利用されたChelseaはプレスの強度を下げ、1stディフェンスの高さが下がります。そしてボール保持が容易になったBrightonはポゼッションベースの2-3-5の形に移行します。(プレスベイティングを確認したい方は、Brightonの2得点目以降(前半15分から30分)を確認するとすぐに見つけられると思います。)
前半42分、2-3-5からの菱形でEstupinanが抜け出し、オウンゴールを誘います。(菱形(ロンボ)の項目で紹介したシーンです)
後半からChelseaは4-3-3にフォーメーションを変更しました。前半と後半では大きく試合内容が変わります。前半ポゼッションはイーブンでしたが、後半はBrighton:Chelsea=30%:70%とChelseaがボールを握ります。プレスベイティングに成功するシーンもかなり減ります。
以下のシーンはGKからのプレスベイティングを試みようとしていますが、プレスを釣れなくなっている場面です。画面に映っていない選手の配置がわからないので難しいのですが、少なくとも中央分割の形は中央に立っている選手のために封じられています。このようにChelseaに対策されたため、後半は一度もGKからのプレスベイティングのこの形を実行することはありませんでした。 xG(上のグラフ)の値からはわかりづらいですが、xT(下のグラフ)(Expected Threat : 相手に与えうる脅威の度合いを示す指標)の値をみると、最も脅威であった時間帯は、プレスベイティングを多用した15分から30分とその後、相手のプレスが弱まりポゼッションを維持し2-3-5の配置でチャンスを多く作った30分からHTまでの時間であることがよくわかります。
De Zerbiは試合後のsky sportsのインタビューでChelsea戦について次のように語っています。
試合開始から20-25分間はボールを保持できなくても、自分たちのやり方でプレイができたという点で非常に素晴らしかった。Brightonは自分たちのスタイルを持っていて、最初の25分間は本当にすごかったんだよ。
"The first 20 to 25 minutes, we were fantastic in terms our activity without the ball, with the ball we played my way and their way. We have our style and the first 25 minutes were really fantastic.
後半開始時にChelseaにゴールを許したことは申し訳なかった。Chelseaは戦術的な配置の変更をしたが、私は変更する準備ができていなかったので失敗してしまった。それでもChelseaに対する素晴らしい結果だからもちろん嬉しいよ。
"I'm sorry for the Chelsea goal because at the beginning of the second half, we suffered a stupid goal. I made a mistake because they changed the tactical position and we weren't ready to change something for us. But I'm happy because against Chelsea, it is an amazing result."
この言葉を聞くと分析があながち外れていないのかなと思えます(安堵)。後半はやはり相手の変更に対応できなかったようです。
前半開始時、Wolvesのプレスの強度はそれほど高くなく、Hee-ChanがCBとCMの4人の中央に立ち、ボールホルダーに対し、カバーシャドウで対応しますが、CMが2人中央にいるため、CBはパスのオプションが多く、ほとんど意味をなしていません。
Wolvesは4-3-3でBarightonの4-2-3-1と噛み合わせがいい形です。相手が人指向で守っている状況では、CBが開きCMが中央で閉じるディーププレスベイティングの形を用いることができます。
BrightonはCKの流れから得点しますが、2分後に取り返されます。
前半30分のあたりになると、相手のプレスの1stラインが下がり、より安定してセンターライン近くでボールの保持ができるようになり、2-3-5の形に移行します。
前半33分PKで失点します。以後も2-3-5の形です。
前半終了間際に三笘の得点。
後半からはWolvesは一人退場したので4-4-1に変えます。Wovesは一人少ないので前線からのプレスの強度は低く、Brightonはボール保持は容易であり2-3-5のより攻撃的な形をとれます。Wovesはコンパクトに守備してくるため、Brightonはサイドの幅をできるだけ使ってWolvesのコンパクトさを分解するようにプレイします。
なかなか得点が取れませんでしたが、83分に三笘のハーフスペースでのドリブルから決勝点です。
De Zerbiは試合後のsky sportsのインタビューでWolves戦については次のように語っています。
「プレースタイルという点ではBrightonで指揮した試合の中で最高の試合だったよ。」Chelseaからの4-1の勝利よりいい試合なんてあるんですか?「プレイの質という点では間違いなく最高だったよ。」
"I think if you want to speak about the style of play, this game was the best game in my experience here in Brighton," said De Zerbi. Better than the 4-1 win over Chelsea? "In terms of quality of play, for sure," added the Italian.
プレーの質・ビルドアップ・そして多くの得点するチャンスがあったという点で。僕は賢くて、質の高い選手を持って本当にラッキーなんだよ。だって、僕の戦術のアイディアは最初のうちは理解が難しいからね。
"In terms of quality of play, quality of build-up and to have many chances to score. I am lucky because I have very smart players, very good players, very good guys, because to understand my idea is not very simple in the first moment."
私もこの試合が一番戦術的な意図が分かりやす意図感じましたし、De Zerbiの企み通りに試合が運んだように思えます。試合を通してDe Zerbiのサッカーを確認したいと思った方はWolves戦の前半を見ると最小限の時間で確認できるかと思います。
試合運び
分析できた試合は少ないですが、幾らかDe ZerbiのBrightonの試合運びの傾向が見えました。
Brightonはホームアンドアウェーや対戦相手の強さに関係なく、基本的に試合が開始すると、まずは強度の高いハイプレスでボールを素早く奪い返そうとします。高い位置で奪えた場合にはショートカウンターを行います。ビルドアップでは、まず第1の選択肢はプレスベイティングです。多くのチームが試合開始時にはハイプレスに出る傾向にあり、プレスベイティングは実にうまく機能します。プレスの1stラインが低いチームに対しては、ボールを足裏で止めて相手が前に出てくるのを待ちます。
相手がプレスベイティングに何度もかかった後、相手チームはプレスの強度が下がり、プレスの1stラインは下がります。するとBrightonはボール保持が容易になります。より攻撃で脅威となる2-3-5の形に移行し、ボールを保持する意識が高くなります。
以上のようにDe Zerbiの目論見が成功した場合、前半は試合をコントロールし、ボールを保持して終えることになります。後半になり、相手のチームがHTで的確に修正してきた場合、試合は難しくなり、試合のコントロールを失います。あるいは、別の監督はボールの保持を諦め、カウンター思考に切り替えます。この場合はBrightonはボールの保持を続けます。
一方前半目論見通りにはいかない試合もあります。この場合ボール保持も安定せず、より賭けの色が強い試合になります。運良く点が入ってしまえばいいが、失点することもあるといったところです。まさにDe Zerbiの嫌いな賭けですね。
終わりに
Part. 3はここまでです。ワールドカップ後もBrightonの試合を見て記事を修正したり、必要があれば別記事をアップしようと思っております。
次はPart.4です。FM23の戦術にやっと落とし込めます。やっとゲームができます笑。ゲームのための時間の使い方が、ゲームで戦術を再現するために実際にゲームをする時間の10倍くらいの時間をかけている気がします😅
試合分析などにご意見・アドバイスなどありましたらTwitter(@4222Football)にリプライいただけるとありがたいです🙇
以下特にご意見いただきたい点です。
ファイナルサードでの崩しに関しては分析・理解することができなかったのでご意見いただきたいです。
ワンサイドベイティングもただの密集と孤立ともとらえられ、変な言葉を使うと混乱を招くようにも思えます。
試合運びについてはよりストーリーがわかりやすいように書いたためにプレスベイティングかボール保持かという2つの選択肢しかないというような誤解を生みそうな文章になってしまった気がします。
De Zerbiが選手の能力を最大限に発揮させることがチームのパフォーマンスを最大化することにつながると述べているので選手の特徴も押さえておくべきですが、これもまたキャパオーバーでした。→✅ Brightonファン4年の方からご意見をいただきました。Brightonの選手の特徴は一芸に特化した選手は少ないが、状況判断能力が高く、組織として動ける選手が多いとのことでした。つまりDe Zerbiの高度なサッカーがまさに必要とする選手が多かったということになりますね。そういう観点から過去指揮クラブとの戦術比較をすると何か分かりそうな気がします。フムフム。